遺産相続における時効

1

遺産相続で、時効のある手続きは以下のとおり。

相続放棄 相続開始を知った日から3ヶ月
遺留分侵害額請求 ・相続の開始を知った日から1年 ・相続の開始を知らない場合、相続開始から10年
相続回復請求 ・相続権を侵害されていることを知った日から5年 ・相続権を侵害されていることを知らない場合、相続開始から20年
相続税の申告 ・相続税の申告期限から5年 ・悪意がある場合相続税の申告期限から7年 ※相続税の申告期限は相続開始日から10ヶ月
生前贈与にかかる贈与税の申告 ・贈与税の申告期限から6年 ・悪意がある場合は贈与税の申告期限から7年 ※贈与税の申告期限は贈与した日の属する年の翌年3月15日
債務の消滅 ・2020年3月までに生じた債務:1〜10年(※) ・2020年4月以降に生じた債務:5年 (※)債務の内容によって異なる
共同相続人による遺産取得 占有開始から10年または20年

1-1 相続放棄手続き

相続放棄の手続きは、相続の開始(被相続人が亡くなった日)から3ヶ月以内に。

相続放棄とは、その名前の通り「相続権を放棄する」手続きで、遺産に借金があるなど、相続することにデメリットがある場合などに。相続手続きの中で最も期限が早く、手続きをしないと遺産の内容に関わらず相続放棄ができなくなってしまうので注意なお、相続放棄だけでなく、限定承認も同じく相続の開始(被相続人が亡くなった日)から3ヶ月以内が期限

1-2 遺留分侵害額請求

遺留分侵害額請求権の時効は、相続の開始(被相続人が亡くなった日)から1年、相続開始を知らない場合は10となります。

遺留分侵害額請求とは、相続人であるにも関わらず、遺言書などによって遺産を取得できない人が最低限補償されている取得分を請求すること

時効が過ぎてしまうと、遺留分侵害額請求はできなくなってしまう。

また、遺留分が発生する可能性があるにも関わらず、時効を迎える前に遺産を使ってしまった場合、あとから遺留分を請求され、自身の財産から遺留分に相当する分を捻出しなければいけなくなってしまうケースも。遺留分が発生する可能性があるのであれば、その点を注意。

1-3 相続回復請求権

相続回復請求権の時効は、相続権を侵害されていることを知った日から5年、その事実を知らなかった場合は20

相続回復請求権とは、本来であれば相続人廃除や相続欠格などで相続権を失っているにもかかわらず、あたかも相続人として装って遺産を取得した人に対し、相続財産を返還してもらう行為

1-4 相続税の申告

相続税の申告の時効は原則として相続税の申告期限から5悪意を持って申告を怠っている場合は7年 相続税の申告期限は、相続開始(被相続人が亡くなった日)から10ヶ月

この時効が過ぎると、例え相続税を申告していなくても、何のお咎めはない。とはいえ、相続税の申告漏れ(無申告)は時効を迎える前に発覚する可能性が高い申告漏れが発覚した場合、「無申告加算税」という税金が追徴。

1-5 生前贈与にかかる贈与税の申告

贈与税の申告の時効は原則として贈与税の申告期限から6悪意を持って申告を怠っている場合は7

贈与税の申告期限は、贈与をした日の属する年の翌年315

贈与税も、相続税と同様時効を迎えたら支払義務はなくなりますが、ペナルティや罰則についても同じく課される。申告期限を守り、しっかりと納税しましょう。

1-6 債務の消滅

債務の消滅時効とは、債務(借金)がある相手(債権者)に対して、元金の返済や利息の支払いなどをする義務がなくなる時期

なお、債務の消滅時効は、債務者が亡くなった日は関係なく、「債権者が権利を行使できる時期」から換算

「債権者が権利を行使できる時期」とは、例えば「支払期限に返済しなかった日」や「裁判所から債権回収手続きがなされた日」など。消滅時効期間は、債務が生じた時期によって異なるので注意が必要。

1-7 共同相続人による遺産取得

共同相続人が分割に応じず、遺産を占有し続けた場合、占有開始から10年または20年が経過すると取得時効が完成します。取得時効が完成すると、所有権はすべて占有者一人のものになるため、それ以降、共同相続人は占有者に対して遺産分割を請求することはできない。

しかし、このような時効が発生するのは、数次相続(1つの財産を対象とした相続が複数回発生すること)が発生した場合。二次相続とも言。取得時効が成立するには、「占有者が占有物を自分の物だと確信すること」が前提。(ここでいう「占有」とは不動産に暮らしていることを指します)そのため、占有物にたいして遺産分割を求められている時点で占有者は「占有物が相続人の共有物」であることを知ること。

このような場合には、「占有物を自分の物だと確信する」ことはできないため取得時効は発生しません。

例外的に、時効取得が発生しうるのは、占有者が死亡し、占有者の世代で遺産分割が必要なのにも関わらず、それを知らずに次の世代が相続したケース。例えば、父親が遺産分割の済んでいない家に住み続け、父親が亡くなった際に子供が「父親の財産である」と確信し、引き続き住み続けている場合などは、「占有物を自分の物がと確信している」こととなりますので、取得時効が成立する可能性が。

1-8 不動産の名義変更手続き(相続登記)

これまで、相続した不動産の名義変更手続き(相続登記)に期限はありませでした。そのため、相続登記をしないまま長年放置され、現在では誰が相続人なのか全く分からない土地が激増。不動産の名義変更手続きをしないと以下のようなリスクやデメリットが。

 

・新たな相続が発生し、相続人が増えることで遺産分割協議が複雑になる

・相続人の気が変わり相続登記の手続きに協力してくれなくなる

・相続人が認知症になってしまい、必要なときに相続登記ができなくなってしまう

・売却ができない

この事態に対処するため、国会で相続登記の義務化について審議され、令和3年(2021年)に相続登記義務化の法案が可決され、令和6年(2024年)までに施行予定。2021年現在は、まだ名義変更をしなくても問題はないとしても、将来的には必要に迫られる可能性が。次の相続の時には義務となっている可能性が非常に高い。そういった点からも、早い段階で不動産の名義変更の手続きを進めておく。

2-1 遺産分割請求権

遺産を相続する際、被相続人(亡くなった人)が遺言を残していなければ、相続人間で取り分について話し合い。(この話し合いを「遺産分割協議」と言い)

遺産分割協議において、自身の取り分を主張する権利を「遺産分割請求権」と言い、遺産分割請求権には期限や時効はありません。

つまり、いつまでも遺産分割を成立させずにいても問題はない。

ただし、遺産分割協議を成立させ、遺産分割協議書に相続人全員が署名・捺印をした後は請求することはできません。

なお、遺産分割請求権に時効がないからと言って、遺産分割を成立しないまま放置することはおすすめできません。遺産分割が成立しなければ、いつまでも遺産は相続人の共有物となり、誰も自由に扱うことができない状態となるから。遺産分割協議は、可能な限り速やかに済ませて、遺産分割を完了。